認知症の高齢者は、何をするかわからないから怖い、いきなり怒ったり、わめいたり、泣き出したり、変な行動をする。
そんなイメージを持っていて、認知症の高齢者を理解することができないという方も多いでしょう。
しかし、実際には認知症の方たちがとる行動にはすべて理由があり、意味もなく怒ったり泣いたりしているのではありません。私たちと同じように理由があっての行動なのです。その気持ちに寄り添うケア方法が、今回ご紹介するフランス発祥のユマニチュードです。
人に気持ちに寄り添わない介護は認知症を悪化させる
食事やお風呂など、介助を抵抗されると非常に困りますよね。そのうち、命令するような態度をとってしまったり、無理やり介助を行ってしまったりすることもあるでしょう。
しかし、そういった行為に高齢者は恐怖を覚えてしまい、さらに抵抗を繰り返します。では、なぜ抵抗するのでしょうか?
それは、認知症によって物事を認識する能力が衰え、常に不安な感情を抱いているからです。そういった状態で強い口調の命令、強引な介助をされては、誰でも恐怖を感じて抵抗するでしょう。
ユマニチュードは認知症患者の不安を取り除く
こういった日常で不安を抱く高齢者に対して、不安を取り除くケア方法がユマニチュードです。ユマニチュード(Humanitude)は「Humanity(人間らしさ)」が語源となっています。
認知症だから理解できないと、話掛けるのを辞めてしまっていませんか?本人の表情が暗いからといって、ベッドに寝かせてばかりいたりしませんか?
もし、あなたが同じことをされたらどう思うでしょう。認知症とは脳の機能が衰えただけで、何も感じていないわけではないのです。あなたと同じように喜び、怒り、悲しみ、様々な感情を感じています。ただ、それをどう表現したらいいのかわからなくなっているだけなのです。
介助があれば立つことも歩くこともできるのに、誰からも話しかけられなかったり、寝たきりの状態が長く続けば、その人は本当に何もできなくなります。
高齢者と会話をしようとしない介護はケアとは言いません。その介護は、感情のこもっていないただの作業でしょう。
ユマニチュードの4つの動作
ユマニチュードの技法は「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの動作から成り立っています。どれも、人と人が関わるために必要な基本を重要視しています。
相手をしっかり見る
「見る」ということは、ただ視界に入れるだけでなく、その人と同じ目線になって、同じ視点で見るということです。
相手が座っていたり寝ていたりするのであれば、自分も座って視線を合わせます。遠くから、または上から見みられると、支配されていると思ったり、介護者に見下されていると思ったりと、認知症患者は恐怖を感じます。
ケアをしている時、その人を見ないということは、存在していないただの物として扱っていることと同じだと思ってください。目線を合わせられないあれば、自分が移動をして強引に目線を合わせます。とにかく、認知症患者の視界に入り込むことがポイントです。
触れる前に話しかける
介助をしているとき、高齢者の手を無言で持ち上げたりしてはいませんか?自分がもし誰かにいきなり手を掴まれたりしたらどう思いますか?驚いて恐怖を感じませんか?
「今から手を触りますよ」「右腕を持ち上げますね」と、一声かけてから介助を行うだけで、認知症患者は恐怖を感じなくなるでしょう。
話しかけてから行動を起こし、今から何をするのか、相手にどうしてもらいたいのかを実況中継のように伝えることが、ユマニチュードでは大切です。
まるで作業するように無言でケアをしないようにして、介助に協力してくれたら必ず「ありがとう」とお礼も言いましょう。初めは心に思っていないくても言いましょう。この一言が次の介助を楽にします。
触れる時は力を入れず優しく
人に優しく触れられると、なんとなく安心しますよね。ユマニチュードでは、優しく触れている時の安心感を大切にしています。
腕を上げて欲しい時も、上から掴むのではなく、下から支えるように持ち上げます。触れる時は子どもの力を心掛けます。この時、親指は力が入りやすいので、使わないようにするといいかもしれません。
強く触れてしまったり、いきなり触れてしまったりすると相手は恐怖を感じてしまいます。ゆっくりと包み込むように優しく触れましょう。
立ち上がるだけでも筋力は回復する
寝たきりの方は、いつも誰かに見降ろされています。以前は自分で立ち上がり、歩くことができたのに、立つことも歩くこともできないという状態で、常に上から見下されているということに、不安や恐怖を感じているでしょう。
そして何より、寝たきりでは筋力が確実に衰えていきます。無理に立たせるまではせずとも、多少の拘縮であれば清拭の際などに立ってもらうようにしましょう。徐々に繰り返すことで、次第に立っていられる時間が長くなり、立位、歩行へと回復するかもしれません。
立ち上がるときは、本人に力を入れてもらうことがポイント。脳が「立つ」という認識を持って立つことが重要であって、介護者が無理やり立たせては意味がありません。
触れることで心を開いてくれる
認知症の高齢者と目線を合わせて、たわいもない話をするだけでも違います。もちろん、笑顔を忘れてはいけません。介助時に限らず、日常から目線を合わせて笑顔で挨拶をする習慣をつけましょう。距離が縮まってきたら、手を握ったり肩に手を回したりしてもいいでしょう。
ボーッとしているだけで、何もできないと言われていた高齢者でも、話しかけ続けることで反応が返ってくるようになったり、相手から挨拶をしてくれるようになったりもします。
もしかすると、今まで何もできないと相手にされず、寂しい思いをしてきただけかもしれません。人の温かさを思い出してもらい、心を開いてみましょう。
患者の可能性を引き出すユマニチュード
最近、老人ホームなどの介護施設で虐待や殺人という事件が多く聞かれます。こういった事件が起きてしまう原因の一つに、介護者が入居者の可能性を信じていないことも含まれていると思います。
介護が必要になったからといって、何もできないわけではありません。認知症でも会話はできますし、高齢者から学ぶことも沢山あるでしょう。相手にしない事、可哀そうと同情する事は、失礼なことです。
今回ご紹介したユマニチュードのケア方法を使えば、認知症高齢者の可能性を引き出し、明るい生活を取り戻すことができるかもしれません。
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