社内での制作案件、制作会社への外注、クラウドソーシングなどなど、Webサイト制作に関わる仕事をしている方であれば、デザインをデザイナーに依頼するシーンがあると思います。
そういったシーンで発注者を苦しめる要素のひとつが「納品されたデザインがダサい時」です。
ディレクターと新人デザイナーの例
Web制作会社で働くディレクターのKさんは、今年入社してきた新人デザイナーにWebサイトデザインを依頼。コンテンツマップとワイヤーフレームを渡し、口頭で色、雰囲気、参考サイトを共有しました。
2日後。Kさんは、新人デザイナーから上がってきたデザインを見て驚愕。自分がイメージしていたデザインとはかけ離れたものでした。それ以前にとにかくダサい。
有名な某デザイン専門学校の出身で、入社当初からデザインセンスには定評があった新人デザイナー。入社後も大型案件のデザインを担当するなど、社内での評価も上々でした。しかし、目の前に提示されたデザインはダサい。ダサすぎる。
コンテンツマップもワイヤーフレームも共有して、ちゃんと色や雰囲気、そして参考サイトも伝えたのにどうしてこうなったのか。
その後、ディレクターのKさんは深夜まで新人デザイナーとデザインのすり合わせを行ったのは言うまでもありません。
クラウドソーシングを利用した時の例
アフィリエイターとして個人事業を営むHさんは、頻繁にクラウドソーシングを利用してWebサイトデザインやバナーデザインを外注化しています。仕事を依頼する方はフリーランスのデザイナーがほとんどで、稀にWeb制作会社からの応募もあるそうです。
今回はキャッシングをテーマにしたアフィリエイトサイトのデザインを依頼することにしました。いつも通り、クラウドソーシングサイトが専用に設けているデザインの希望項目を入力して、資料にサイトマップとモックアップを添付。
一般的な相場よりも少し高い「トップページのみのデザイン 報酬5万円」に設定すると、その日の夜には3名のデザイナーから応募がありました。
応募があった中から実績もまずまずで、ポートフォリオや制作実績に掲載されているWebサイトも綺麗なデザイナーの方に依頼することにしました。さっそくメッセージ送信し軽く挨拶を済ませて着手開始。
翌日。納品されたデザインを見て唖然。これはひどい。そしてダサすぎる。しかも参考サイトを意識しすぎてオリジナリティのかけらも感じられません。
その後、アフィリエイターのHさんは「いやいや、あなたの言われた通りに作りましたのでお金は払ってください」と渋るデザイナーと1ヶ月に渡るやりとりの末、これ以上は時間と労力の無駄と判断し、初稿で納品されたダサいデザインに報酬を支払ったそうです。
多発するダサいデザインの納品トラブル
上記の話しを聞いただけでゾッとしたディレクターやアフィリエイターも少なくないことでしょう。
なぜなら、実際にこうしたやりとりは、Web制作会社でもクラウドソーシング上でも毎日のように行われているからです。それだけ、Web業界では「あるある」と納得できるトラブルなのです。
しかし、こうしたトラブルにどうか目を背けないで下さい。大切なことは発想の転換です。
ダサいデザインとなった原因は誰にあるか?
ここで唐突ではありますが、筆者の簡単な自己紹介をさせていただきます。現在、私はアフィリエイターとしてWebサイト制作やクラウドソーシングを利用してデザインの外注を行っています。
ですが、以前はWeb制作会社に勤めておりWebデザイナー兼エンジニア、さらに2015年からは独立してフリーランスのWebデザイナーとして働いていた経験があります。
今では発注者側の立場として仕事をする機会が多いですが、以前は完全な下請けのWebデザイナー側の立場でした。
そうした経緯もあり今回のテーマでもある「デザイナーが納品したデザインがダサい理由」の一件で感じたことは、デザイナー側に原因があるケースは非常に珍しいということです。
デザイナーが納品したデザインがダサい理由
まずは上記でご紹介したWeb制作会社のディレクターとクラウドソーシングを利用したアフィリエイターの2つの例で確認してみましょう。
一見すると、どちらも必要最低限以上の情報は提供しており、デザイン作業に必要な材料は揃っているようにも思えます。
- コンテンツマップ(サイトマップ)
- ワイヤーフレーム(モックアップ)
- 色
- 雰囲気
- 参考サイト
普通なら十分すぎる情報量です。これだけあれば作業時間も大幅に短縮でき、削減できた時間で高いクオリティのデザインに仕上げることができます。ですが、高いクオリティのデザイン=発注者が求めるデザインとなるとは限りません。
例えば「女性が好む可愛らしいコスメ販売サイト」という言葉を聞いて、あなたはどんなサイトをイメージしますか?おそらく10人中同じサイトをイメージする人は2~3人程度でしょう。
つまり、発注側とデザイナー側の頭の中のイメージが一致する確率は必ずしも100%ではないということです。
「そのための参考サイトだよ」と反論の声が聞こえてきそうですが、デザイナーからしてみると参考サイトなんて色と雰囲気とレイアウトしか見てません。丸パクリすると怒られるから。
文字しかないコンテンツマップ(サイトマップ)と線だけのワイヤーフレーム(モックアップ)、漠然とした色と雰囲気の要望、それに絶対に真似してはいけない参考サイト。
先ほどは「十分すぎる情報量」とあえて言いましたが、本気でWebサイトをデザインする人にとっては「たったこれだけの情報量」と感じる場合もあるということです。
本気のデザインに必要な情報
では発注者はどういった情報をデザイナーに提供しなければならいのでしょうか?
(ここからは完全に私個人の意見になります)
まず上記の資料や情報は最低限必要です。ですが、一つ一つの情報をしっかり作り込むことで、より理想的なデザインに仕上げる近道になります。
コンテンツマップ(サイトマップ)
サイトの全体像と構成、そしてページ同士の関係性や遷移を明確にする資料。ページごとに概要を記入したり、ファイル名やディレクトリ名といった構築の工程も想定した内容が理想的。
ワイヤーフレーム(モックアップ)
サイトデザインを線と図、そしてテキストを使って表現した骨組みのような資料。共通パーツの指定、各パーツのレイアウトや関係性、サイト幅など可能な限り細かく指示を書く。
色
ロゴなどのサイトの印象につながるメインカラー以外に、余白や背景に用いるベースカラー、そしてユーザーの目をひくアクセントカラーの3色を決めます。各色の指定はワイヤーフレーム(モックアップ)に記述します。
雰囲気
一言に雰囲気といっても人によって様々で抽象的な表現にすぎません。可愛い、キレイ、カッコイイ、スタイリッシュといった単語で終わらせるのではなく、質感なども交えて具体的にイメージを伝えます。
- 可愛い→手書きのような質感の可愛いデザイン
- キレイ→清潔感が漂うホワイトとブルーを基調としたキレイなデザイン
- カッコイイ→男性ウケが良い金属的な質感で角ばったカッコイイデザイン
- スタイリッシュ→細めのフォントと線が印象的のスタイリッシュなデザイン
参考サイト
Webデザインにおける参考サイトとは、これまで抽象的な発注者側のイメージを決定づけるトドメの必殺技です。
サイトの作りはこのサイト、レイアウトはこのサイト、色使いはこのサイト、雰囲気はこのサイトといったように、デザイナーと完成イメージを共有する重要な情報です。
- サイトの作りはこのサイトを参考に→コンテンツマップ(サイトマップ)が明確になる
- レイアウトはこのサイトを参考に→ワイヤーフレーム(モックアップ)が明確になる
- 色使いはこのサイトを参考に→色が明確になる
- 雰囲気はこのサイトを参考に→雰囲気が明確になる
さらに言えば「このサイトのこのパーツ」といったように、より具体的な要望を伝えることができればベストです。
デザインの段階で発注者がここまでする必要はあるのか?
トップページのデザインだけに、ここまで資料を作り込む必要があるのかと問われれば、サイトの規模と本気度によるとしか言いようがありません。
ですが、この程度の資料作りもできない人が、デザイナーに対して文句しかないというのであれば、クレイマーや地雷案件と言われても仕方ないでしょう。
そもそもWebサイト制作はそんなに単純なものではありません。納品されたデザインがダサいのは、ある意味、発注側としてのスキルの評価なのかもしれません。
ですが、本気でWebサイトを作るなら、上記のような細かな設計や情報は絶対に必要になります。少なくても私は用意しています。もしかしたらサイト制作時間よりも、資料作成に費やす時間の方が多いのかもしれません。
しかし、具体的な資料があるからこそ制作時間が短縮できているという結果論につながっているということは揺るぎない事実です。
発注者がデザインに関わりすぎるのもNG
発注者が提供する資料で、デザイナーはサイトに対する本気度合いを見極めています。私自身、適当な発注をする案件には適当なデザインでいいのかな?という気持ちでデザインしていた時期もありました。(こういうデザイナーもいます)
ですが、逆にデザイナーの領域に踏み込みすぎるのも如何なものかと思います。デザインに対して細かい指示を出したり、当初のイメージをぶち壊すような提案を途中でしてはデザイナーのモチベーションは下がる一方。
発注者が慣れないPhotoshopを使ってデザイン修正をし始めた時にはデザイナーの立場がなくなり、侮辱ととらえてしまうデザイナーも少なくないはず。(私です)
非常にシビアでめんどくさいですが、押すところは押して引くところは引くという判断が、効率的なWebサイト制作の需要なカギになってくると思います。
デザイナーの存在意義とは?
発注側がそこまで気を使わないとデザイナーはデザインできないのか?それじゃオペレーターと同じではないか?そんなデザイナーには絶対に頼みたくない!
そんな意見が聞こえてきそうですが、そういった思考になってしまう方は、誰かに仕事を依頼すべきではないと私は思います。上記でも言いましたが、あなたの頭の中を理解している人は、あなた以外誰一人として存在しません。
確かに、クラウドソーシングにはとんでもないデザイナーもたくさんいます。ですが、誰でも発注できて誰でも仕事できるのがクラウドソーシングというものです。そういったデザイナーを見極めるスキル、そして運がなかったと割り切る度胸も大切です。
デザイナーの仕事はどこまで?
クライアントの意思をくみ取り、求められるデザインを完璧に具現化することが本来のデザイナーの仕事ですが、実際にそれができるデザイナーはほんのわずか。
ましてや、クラウドソーシングではデザインを学んだことが無い素人が「デザイナー」と名乗れるような世界です。そんな名ばかりのデザイナーに完璧を求める時点で間違いではないでしょうか。
あなたは「ダメなデザイナー」と思っているかもしれませんが、実はそれが普通なんです。むしろ、そういう意識で外注デザイナーに仕事を依頼してください。
ちなみに、下記サイトで紹介している「本物のデザイナー」は安い報酬の下請け案件なんて絶対に受けません。小さなWeb制作会社では働かないし、クラウドソーシングで小遣い稼ぎもしません。本物のデザイナーは世界を相手にしている人がほとんどですから。
デザイナーという人達の仕事
誰かにデザインを依頼する意味を考えよう
今回、デザイナーとクライアントの役割について考えたキッカケはこちらのページ。
本来なら自分でデザインができればいいところ、Photoshopが使えなかったり、デザインセンスがなかったり、作業時間が限られているという理由から、デザイナーに頼んでいる人が大半でしょう。
私自身も、手を動かすデザイナー側からサイトを企画して構成を考えるディレクター側になってからは、このことを忘れないように外注デザイナーに依頼しています。
独立して一層孤独に仕事をしている今。これまで以上に人とのつながりや良質な関係性の重要性が分かるようになりました。
在宅ワークやアフィリエイトは一人でもできる仕事ですが、インターネットの向こう側には必ず誰かがいます。社内でデザイナーと接する機会が多いという人ならなおさら人間関係や信頼が大切になってくるでしょう。
「デザイナーから納品されたデザインがダサい」と一方的に攻め立てるのではなく、共に仕事する仲間とWin-Winな関係を築くことから始めるといいのかもしれませんね。
記事のコメント
コメント失礼します。現在デザイナー職の者ですが気になったのでコメントします。
本物のデザイナーさんが下請けの仕事を受けるはずない様な事が書かれていて、それもそうかもしれませんが、この記事で書かれているような「世界を相手にしている本物のデザイナー」とはいかなくても、そこそこの表現力を持つデザイナーは沢山いるかなと思います。
価値観は様々で、細々とデザイナーをやりたい人だっています。
実力があっても、家庭やプライベートを大事にしたい時期もあります。経験と共に年齢も上がるのでそういう傾向になってくるかと。
でも確かにそこそこの実力の方は報酬が少ない案件には応募しないですよね(相場より高く出したとあったのでこれはあまり当てはまらないかも知れませんが)。
あるいは興味を引くジャンルではなかった、など、良いデザイナーとのマッチングがなにかの原因で叶わなかった、と言う印象を受けました。