食事を摂るということ同様に、水分補給も生きる上では欠かせないことです。体内の水分は、汗や排尿・排便、呼吸によって常時失われており、その失った分を補給することで体内に必要な水分量を維持しています。
6%の水分を失うと身体に異常が出る
そもそも人間は、体内の水分の3%を失うと喉の渇きを感じます。6%失うとめまいや呼吸困難になり、10%でけいれんを引き起こします。体内の水分の20%を失うと死に至るとも言われています。
喉が乾けば飲み物を飲むという行動をとるのが生き物の本能ですので、体内の水分量の3%を失った時点で脳が「危険」と判断し、水分補給を行うようになっています。
しかし、高齢者の場合は注意が必要です。加齢によって喉の渇きを感じるための脳の機能が低下し、喉の渇きを感じにくくなっています。つまり、水分補給が必要な状態にあるにも関わらず、自らの意思で水分補給を行わない場合があるのです。
高齢者は成人より水分補給が必要
高齢者は加齢によって尿を濃縮する肝臓の働きが低下しているので、一度の排尿量が多くなっています。また、体内に貯めておける水分量も成人と比べると少なく、高い頻度で水分補給をしなければいけません。
こうした高齢者の水分不足を防ぐために、介護者は常に水分補給を意識していなければいけません。
脱水症状かどうかを確認する簡単な方法
高齢者は喉の渇きを感じるための脳の機能が低下しているので、自ら水分補給をせず、知らずと水分不足になりがちです。
そういった場合でも、介護者は高齢者の脱水症状を防ぐために、脱水症状のサインを見逃さないようにしなければなりません。
脱水症状のサイン
脱水症状になった人は6つの特徴があります。その特徴をしっかり覚えて、高齢者が水分補給を必要としているサインとして覚えておきましょう。
- 脇の下が乾いている
- 尿量が少ない
- 口の中が渇いている
- 微熱がある
- 皮膚が乾いている
- 痰が絡んだ咳を繰り返す
ハンカチーフサインで確認する
上記のサインでは判断しづらい場合は、ハンカチーフサインを行いましょう。ハンカチーフサインとは、手の甲の皮膚を指でつまみ上げて脱水状態をチェックする、高齢者の水分量を計測するための最も手軽な方法です。脱水状態の場合、ハンカチをつまみあげたように見えることからハンカチーフサインと名付けられました。
水分量に問題無ければ皮膚はすぐに戻りますが、脱水を起こしている場合だとしばらく戻りません。ハンカチーフサインによる方法は個人差がありますので、必ず他の症状とも照らし合わせることをおすすめします。
高齢者が1日で失われる水分量と補給すべき水分量
運動量が少ないから、汗をかかないからといって水分補給が少なくていいというわけではありません。体内に蓄えられる水分量が少ない高齢者だからこそ、十分な水分補給が必要になります。
では、実際に1日でどのくらいの水分量が失われて、どのくらいの量の水分を補給しなければいけないのかを、下記のグラフを目安に見ていきましょう。
1日に体内から失われる水分量
1日のうちで体内から失われる水分量は、高齢者でおおよそ2500mlと言われています。その大半が尿によるものとなっています。また、運動をしなくても、呼吸やちょっとした汗によって900mlもの水分が失われています。また、発熱、下痢、嘔吐などの症状がある場合はもっと多くの水分を補給する必要があります。
1日に体内に必要な水分量
当然ですが、失われた分、水分補給をしなければいけません。水分補給の40%は食事から摂取できるとされていますが、問題は飲み物から吸収しなければいけない残りの60%です。一度に多くの飲み物を飲むことが出来ない高齢者にとって、1500mlもの水分を飲み物で摂取するには、こまめな水分補給しか手段はありません。
介護者にとってはかなり大変なことですが、食事中と睡眠中以外は常に飲み物を飲んでもらわなければいけないといっていいほど、こまめに水分補給を促すことが大切です。
介護における水分補給の方法と工夫
高齢者の水分補給は食事介助以上に注意が必要です。特に、嚥下障害の高齢者の場合、水分は食べ物以上に誤嚥しやすいとも言われています。一回の水分量を少なくして、こまめに水やお茶を飲んでもらうようにしましょう。
水分補給時の姿勢
水分補給時の姿勢は、基本的に食事介助と同じです。あごをしっかり引いて、気管に流れてしまわないように注意しましょう。寝たきりのベッド介助の場合も、必ず姿勢を起こしてから飲み物を飲んでもらうようにします。
水分補給の工夫
重度の嚥下障害を抱えている高齢者にとっては、少量の水分補給でも誤嚥性肺炎を招く危険性があります。そこでオススメな方法として、水分を固めてから与える方法があります。「水分を固めて水分補給」とは、ちょっと不思議な言い回しですが、具体的な方法をとしては寒天やゼラチンで水やお茶を固めてしまう方法です。
「固めてしまったら水分として吸収されないのでは?」と疑問に思う方もいると思いますが、寒天やゼラチンで固めた水やお茶は、口から飲み込んだ後に胃の中で溶けだし、再び水分に戻り、吸収されます。つまり、飲み込む瞬間だけ食べ物になるというだけなんです。
水やお茶をそのまま固めてしまうと、決して美味しいとは言えないゼリーとなってしまいます。そうすると、お年寄りも食べたがりません。ですので、水やお茶を固まらせるのであれば砂糖やシロップを入れるなどして、多少甘くするといいかもしれません。
その他にも、寒天やゼラチンで完全な固形物にするのではなく、とろみ剤を使ってドロドロの半液状にして水分の補給を行う方法もあります。また最近では、いちいち調理する手間を省ける飲むゼリーのような、水分補給専用の介護食品も発売されているので、こちらもおすすめです。
水分補給を拒否する高齢者には?
高齢者の多くは喉の渇きを感じづらく、自分から率先して水分補給をしようとしない、つまり拒否するお年寄りもたくさんいます。その理由の大半には「飲み物を美味しく感じられない」という意見があります。
そういった方には、水やお茶ではなく、スポーツドリンクやオレンジジュース、コーヒーや紅茶など、水分補給にいくつかバリエーションをもたせるといいでしょう。水分補給は無理やり行うのではなく、一つの楽しみとして本人も取り組んでもらうことで、介助自体もとても楽になります。
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